私は決してマラソンガチ勢ではない。
ハーフ5回、フルは4回完走しているが、ベストは4時間ちょっとでサブフォーも達成できてない。が、100キロマラソンを完走したことがある。
2015年4月19日、チャレンジ富士五湖ウルトラマラソンに出場した。出場を決めたのは前の年の11月。ちなみにその直前まで、ウルトラマラソン走る勢に自分が入るなど微塵も考えていなかった。
たまたま、出場する人が知人にいて、「なおはしちゃんならイケるよ!」「いや~無理ですって~アハハ~」という会話のあと、なぜか突然頭がアホになり、「イケる・・のか・・・?」と申し込んでしまったのだ。本当にアホになってしまったのだと思う。
当時の参加費は確か15,000~18,000円くらい。(2023年現在は22,000円)さらにスタートが早すぎるので前泊するための宿も取った。本当にどうかしてしまったのだと思う。
当時の自分の実力事情と事前練習
当時の私のスペック 32歳女性 フルのベスト:4時間6分 ハーフベスト:1時間37分
月の平均走り込み 100キロ 練習ペース、キロ6分くらい
というライト寄りの市民ランナーだったので、とりあえず1月から3ヶ月間、月150キロを目指して走り込んだ。が、なかなか大変で、月100~150の間をウロウロするくらいだった。本番の1週間前に30キロ走って、あとの1週間は足の疲れを取るために休養した。
持ち物、「走り切る気持ち」
本番前に大会のパンフレットが送られてきた。
持ち物に「走り切る気持ち」がある。確かにこれは重要だ。
ウルトラマラソンは、何も食べないで走るとエネルギーが足りなくなってしまうので、途中で捕食(エイドと言う)を何度もする。どの地点で何が出るかは、事前に教えてもらえる。
95キロ地点で飲むコーヒー、どんな味がするんだろ?80キロ地点にハテナエイドがある。80キロまで走りつくまで、内緒のエイドらしい。なんだろう?楽しみ!
パンフレットには、前日に飲酒をしすぎない、寝不足で走らない、など様々な注意事項が書いてあった。心停止のリスクを下げるためらしい。
し、心停止・・さすがフルとは次元が違う・・・
前日泊まった宿は、明日のランナーばかり。合宿のように皆で夕飯を食べる。40~50代の男性が一番多くいそうだが、若い女の人やかなり年配の人もいた。
みんな速そうすぎて、ビビる。緊張を和らげようと、私より少し年上で大人しそうな、図書館にいそうなおさげの女の人に話しかけてみると、118キロランナーだった。
へ、変態の集まりだ・・・みんな変態だ・・そして私も、変態なのか・・・
朝5時スタート。修行か?
20時に就寝し、3時に起きて、5時スタート。どんな罪を犯したんだ?というような苦行だが、皆、自ら走りに来ている。
へ、変態だ・・
ちなみに118キロランナーは4時スタート。2時に起きてた。
この辺で急に、これから100キロ走るという事実に、すごい緊張してきた。100キロって。私に走れるのか?もちろん練習で100キロ走ったことはないので、初めての経験である。前の年に2ヶ月キューバに行ったのだけれど、羽田空港に向かう時もこんな気持ちになった。
スタートには寛平さんが来てくれていて、ハイタッチした。「右足出して、左足出して、それを続けるんやで~!つらいぞ~!つらいぞ~!」と言っていたが、このセリフをこの日何度も思い出すことになる。
8キロ地点でまさかの尿意
朝はまだ寒く、さらにエナジードリンクを直前に飲んでいた私は、スタートしてすぐにまさかのおしっこに行きたくなってしまった。早速の大ピンチである。
最初のトイレは8キロ地点に一つ(男女共同)。トイレ同志が結構いてすでにズラー、ここで痛恨の30分ロス。マジかよ。
ちなみに男性は小の場合、その辺でしてしまう事がよくあり、もちろん問題になっている。男性もトイレでしましょう。
最初の関門は厳しめなので、ここからかなり速いペース(キロ6分ちょい)で走らないと30キロで足切りになってしまう状態になってしまった。なんということ!とにかく頑張って走る。関門の直前は上り坂で、あと2分で足切り!あと1分!という状態で上る坂は、後ろから大きな岩が追いかけてくるような気持ちであった。つぶされる!という危機感でなんとか関門をクリア。
100キロ走る気で来たのに、こんなところで終われねぇ。
60キロ地点 あきらめたら、そこで試合終了ですよ
50~60キロらへんが一番きつかった。すでにフルマラソンの距離(42.195キロ)はとっくに超えていて、未知の領域。それなのに、まだ半分だというのか?なんなんだこのスポーツは?この辺で私のスポーツウォッチの充電が切れて(当時、一日充電が持つスポーツウォッチは殆ど無かった)もはやペースもわからない。すでに足も痛い。辛い・・辛い・・・そんな時、沿道で応援している人がプラカードを持っていた。
「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」
マジでこの言葉を見なかったら、私は次の関門でリタイアしていただろう。すでに何百回と聞いてきたセリフだったが、私はこの言葉の本当の力をここで初めて知るのであった。
やはり井上雄彦先生天才や。
70キロ地点 すでに気分はエピローグ
母数がデカくて私の感覚も麻痺しているので、70キロ走った時点で、
「やったー!あと30キロ!終わったも同然」と感じた。
私のレベルが上がった瞬間であった。
ここからはこれまでと比べ物にならないくらい、気持ちが楽に走れた。
あと、良くないんだろうけど、足が痛すぎたのでここで持ってきたロキソニン飲んだら、足の痛みが消えて、
あ、これ仙豆だったんだ?
と思った。実際は仙豆ではなく、次の日に壮絶な筋肉痛になるのですが。
最大の楽しみのエイドの中、忘れられないハテナエイド
先述したエイドは、かなりの励み、楽しみになる。次は吉田うどん!文明堂のカステラ!など、企業から提供されているスペシャルなエイドがちょこちょこ出るのだ。
途中DNSから提供されたパワージェルが無かったら、多分完走出来ていない。
そして走る前から楽しみにしていた、80キロ地点でのハテナエイドまでたどり着いた!どんなスペシャルなフードなのだろう。しかしパッと見てもそれっぽいものが無い。
スタッフさんに、「すみません、ハテナエイドはどれですか?」と聞くと
嘘でしょ?
たらたらしてねーよ・・・こんなに楽しみにしてたのにまさかの駄菓子?ダジャレ・・・?
恐らくすでに相当不評らしく、スタッフさんも「これなんですけど・・」って申し訳なさそうに言っていた。そんなスタッフさんを気遣う余裕は80キロ走った私にはなく、「いりません・・」と本当の事を言った。優しさには余裕が必要である。みんな、日常生活に余裕を持とうね。
95キロ地点で飲むコーヒーは美味しいんだろうな、と思っていたが、実際はコーラがとにかく美味しかった。炭酸しか勝たん。でも、軽くジョギングした後の方が美味しい。
90キロ以上走っていると、何かを美味しいと感じる気持ちはもはや無くなっていた。
富士五湖ウルトラマラソンは、ドSが考えたとしか思えない頭おかしい高低差が特徴だ。地理が異常に弱く、ウルトラ初心者の私は、高低差の事なんて全然考えないで参加してしまった。それが良かったんだと思う。
事前にこの高低差に気付いていたら、心臓飛び出して試合終了どころか試合棄権していたかもしれない。
えっぐ・・・知らなくて良かった・・・
そう、95キロからずーーーーっと上り坂なのである。マジでこれ考えてる人どうなんだ?私はこの時点で制限時間より1時間半以上余裕があったので、この坂はほとんど歩いた。
朝寛平さんが言っていた通り、右足出したら、左足出すだけのロボット。私はロボット。なにか感情を持ってしまうと、体が動かなくなる。なるべく何も考えず、とにかく進んだ。
FINISH 13時間3分1秒
永遠に続くかと思った上り坂も終わり(終わったはず。全く記憶がない)、最後くらいはちょっと走ろうと、フィニッシュテープは走って終われた。時刻は18時すぎ。
完走の感想は、「辛かった」。フルも、ハーフも、終わった後は、もうちょっと頑張れたんじゃないか?とか、練習足りなかったんでは?とか、反省するものなのだが、この時の脳内は「辛かった」以外なかった。よく覚えている。
完走率は大体半分くらいだった。申し込む変態の中でも、完走できるのは半分くらい。すごい世界である。
翌日、人生で一番の筋肉痛
その日のうちに応援に来ていた家族の車で帰宅出来たのだが、起きた翌日、全く体が動かない。足を少し曲げて寝ていたのだが、伸ばすのに30分かかった。それからベッドから出るまで30分、トイレに這って行くまで30分・・「うぉ・・うぉ・・・」と言いながらヨロヨロで動く姿は、おそらく赤ちゃん以来の私であった。
100キロマラソンを完走して得たものとは
翌日からは足を引きづって出社。むくみでいつもの靴が入らず、上履きみたいな靴で出勤した。
「なおはしさん、どうしたんですか?」「いや~、実は100キロ走りまして」というのはコントのようであった。
体のダメージは回復するまで半年くらいかかった気がする。ちなみに全く痩せなかった。
100キロマラソンは体に悪い。全然健康じゃない。人間は忘れる生き物なはずだが、100キロ走った辛さは長年忘れられないほどであった。
得たものはただ一つ、「私100キロ走ったことあるんですよ」と言えること、それだけである。
あ、あと、「上には上がいる」というのも身をもって実感できる。
ウルトラマラソンを毎年完走していたり、200キロ超えに出ている人もいる。そういう人から見れば、100キロなんて特別じゃなくて、日常なんですよ。そういう仲間に出会えたことは、自分のモチベーションアップにもなるし、広い世界を見れた気がした。やはりどんどんチャレンジしていった方が、世界が広がるんですよ。
私の特別は、誰かの日常。そして私も、それが日常になっていく。世界はそれを変態と呼ぶんだぜ。
フルは、フルの、ハーフはハーフの、10キロは10キロの辛さがあるが、100キロの辛さは異常であった。ただ、ちょくちょく言ってしまう。「私100キロ走ったことあるんですよ」・・。
あれから8年。100キロは辛い。知っている。しかし、そろそろまた挑戦したい気持ちが出てきた。私は変態なのか?アホなのか・・?Mなのか?
もし100キロ走ってみたい人がいたら、教えてください。おススメしません。
コメント